※ 記事末尾に本記事の動画も用意しておりますので、併せてご利用ください。
はじめに
相続が発生すると、(葬儀社や斎場等に)支払うお金が必要となります。
相続税の申告・納税は相続開始から10カ月以内なので比較的余裕があるのですが、斎場等への支払いは、被相続人の逝去直後です。
ところが、銀行預金口座の名義人が亡くなると(亡くなったことが銀行に伝わると)、被相続人の預金が凍結され、引き出しができなくなります。
預金を引き出すためには、遺産分割協議書や遺言書などの書類が必要になりますが、とりわけ遺産分割協議には相応の時間を要することになるので、その間は預金を引き出すことができません。
したがって、被相続人の手元に現金がなければ、相続人が自分自身のお金で一旦立替払いをするなどして、急場をしのぐことになります。これは、相続人にとってかなりの負担となる場合があります。
銀行預金の凍結
相続が発生し、銀行等の金融機関が口座名義人(被相続人)の死亡の事実を把握したり、あるいは、相続人が死亡届を提出したりした場合、それ以降は被相続人の預金の引き出しが不可能となります。
これは、口座名義人の死亡後に相続人が預金を勝手に引き出してしまうと、相続人間でトラブルが生じるためです。
したがって、遺言書がない場合等については、相続人間の合意に基づく遺産分割協議を行い、「遺産分割協議書」を金融機関に提出しなければ、預金の払い戻しができないのです。
遺産分割協議を行うためには、被相続人の財産調査を行い、各相続人が合意できる分割を行うことになるので、通常、遺産分割協議には数カ月間の期間を要しますので、その間の(葬儀等の)出費に関して、相続人が負担をするケースも散見されます。
相続預金の払戻し制度
そこで、遺産分割前において、葬儀費用や生活費に充当する資金が必要となった場合、一定額の預金払戻しが可能となる制度が、相続預金の払戻し制度(2019年7月創設)です。
この払戻制度には、
❶家庭裁判所の判断による払い戻し
❷銀行の窓口で申し出て行う払戻
の2つがあります。
家庭裁判所の判断による払戻し
家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申し立てられている場合、相続人が家庭裁判所へ申し立てて審判を得ることで預金の全部または一部の払戻しを受けることができます。
ただし、無制限に払い戻しが認められるわけではなく、生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます。
つまり、相続人単独で払戻しができる額は、 家庭裁判所が(仮取得を)認めた金額となります。
銀行の窓口への申し出による払戻し
各相続人は、相続預金のうち、口座ごとに下記の計算式で求められる額で、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
「 相続開始時の預金額 × 1 / 3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分」
ただし、同一の金融機関(複数の支店がある場合にはその全支店)からの払戻しは150万円が上限となります。
| (質問)相続人が長男と長女の2人で、被相続人の預金がA銀行に1,200万円ある場合、長男が払戻しを受けられる額はいくらですか? (回答)1,200万円 × 1 / 3 × 1 / 2 = 200万円 > 150万円 ➡ 長男はA銀行から150万円の払戻しが受けられます。 |
制度の留意点
相続預金の払戻し制度は、遺産分割前であっても(葬儀の費用や生活費等の支払いに充てるため)預金の払戻しができるので便利な制度です。しかし、留意すべき点もあります。
まず、制度を利用するためには、所定の書類が必要となるという点です。また、所定を提出した後、相続預金の払戻しまでには、内容確認等のため一定期間を要します。
2番目として、遺言書などで相続人の引き継ぐ財産が指定されている場合、相続預金の払戻し制度を利用できないケースもあります。詳細は、払戻しを受けようとする取引金融機関にご確認ください。
最後に、相続預金払戻し制度によって払い戻された預金は、後日の遺産分割において、払戻しを受けた相続人が取得する財産となります。この払戻制度を利用する場合には、相続人の財産を引き継ぐ意思(=単純承認の意思)があると見做されるため、相続放棄ができなくなることもあります。よって、被相続人にプラスの財産を上回る借入金や保証債務などのマイナスの財産がある場合には、制度の利用には注意が必要です。
以上となります。

